深い葡萄酒色のソファー、丁寧に手入れされたぴかぴかの机、
カウンターから見えるマスターの仕事道具たち。
いつか行きつけの喫茶店を見つけたいとずっと思っていますが、
まだ「ここだ」と思える場所には出会えていません。
今日は、そんな私の理想の喫茶店が描かれる
『喫茶トルンカ』シリーズを紹介します。
純喫茶トルンカシリーズ(全3巻)
- 著者:八木沢里志
- 出版社:徳間文庫
シリーズは以下の順番で進みます。
- 純喫茶 トルンカ
- しあわせの香り 純喫茶トルンカ
- 最高の一杯 純喫茶トルンカ
東京の下町にひっそりと佇む「喫茶トルンカ」には、
寡黙なマスターが淹れる一杯を求めて、さまざまな人々が訪れます。
静かな日常の中で、彼らの心とマスター自身の過去が少しずつほどけていく物語です。
感想・レビュー
本の中の行きつけの喫茶
『純喫茶トルンカ』シリーズを三冊読み終えた時、
まるで自分の中に行きつけのお気に入りの喫茶店ができたような気持ちになりました。
ページをめくるたびに、あの店の空気やコーヒーの香りがふっと立ち上がってくるような、そんな読書体験です。
訪れる人々と、救われていく心
シリーズ序盤では、喫茶店に訪れる人々にそっと光が当たります。
マスターの淹れる一杯のコーヒーが、彼らの心を少しずつ救っていく。
静かで、あたたかくて、どこか懐かしい時間が流れていくような物語です。
読み進めるほどに、寡黙で誠実なマスター自身の背景が少しずつ明らかになっていきます。
淡々と仕事をこなすその姿の奥に、確かな過去や思いがあると知ると、
もう一度、最初から読み返したくなりました。
人間臭くて、あたたかい登場人物たち
登場する人たちは皆、人間らしくて、弱さもあって、でもあたたかい。
その人間臭さが、読んでいるこちらの心をそっとほぐしてくれます。
誰かの弱さや迷いが、どこか自分と重なるような感覚もありました。
マスターの秘密と子どもの死(一部ネタバレあり)
※この章のみ、一部ネタバレを含みます
巻1では、マスターが長女を亡くしており、その出来事をきっかけに奥さんと離れて暮らしていることが描かれています。
物語を読み進める間、トルンカで働くマスターの姿を見ながら、
心のどこかで「この家族にはどんな事情があったのだろう」とずっと気になっていました。
やがて明かされる、子どもたちに伝えられなかった秘密。
そして、マスターと奥さん、それぞれが抱えていた思い。
長女を亡くしたマスター一家は、それぞれの形で喪失を受け入れていきます。
その過程は決して劇的ではなく、
ただ、ゆっくりと、痛みを抱えたまま歩いていくような時間です。
そして最後、皆がそれぞれの思いを受け入れた後、
また手を取り合って家族として生きていけるのだと感じました。
悲しみの中にも、確かな希望が灯るような結末でした。
さいごに
心配してもどうしようもないのに、不安で落ち着かない時ってありますよね。
刺激の強いものには触れたくないけれど、何かに寄りかかりたい。
そんな時、この本はとても良い相棒になってくれる気がします。心配ごとでいっぱいになった頭を、ひととき喫茶店の椅子に座らせてあげるような読書体験。
読み終えた後には、どこか心が静かに整っているのではと思います。

