悲しいだけで終わらない物語『ライオンのおやつ』感想

書評

本記事では、ネタバレなしで『ライオンのおやつ』がどんな物語なのか、どんな人におすすめなのか、そして実際に読んだ感想をまとめています。

本の情報

  • 著者:小川 糸
  • 出版社:ポプラ社
  • 発売日:2022年10月5日
あらすじ

若くして余命宣告を受けた雫は、瀬戸内にあるホスピス「ライオンの家」で最期の時間を過ごすことになります。

「ライオンの家」には、入居者が思い出のおやつをリクエストできる『おやつの時間』があり、雫はそこで自分の過去と静かに向き合っていきます。

おやつの時間をきっかけに、入居者それぞれの人生に触れ、雫自身も「死にとは何か」「生きるとは何か」を少しずつ見つめ直していきます。

瀬戸内の静かな海のそばで紡がれる、命の終わりと向き合う物語です。

どんな人におすすめ?

  • まっすぐと死に向き合いたい人
  • 派手な展開より、丁寧な描写を好む人

まっすぐと死に向き合いたい人

この物語は、死に向かう人の視点から、最期の時間を静かに、そして驚くほどリアルに描いています。自分では経験できない「死へ向かう過程」を、物語を通して体験させてくれます。

ただし、死への描写が率直であるぶん、今死に対して敏感になっている人には重く感じられるかもしれません。

心が落ち着いていて、「今なら向き合える」と思えるときに読んでほしい一冊です。

派手な展開より、丁寧な描写を好む人

この物語には、大きな事件や劇的な展開はほとんどありません。だからこそ、病室で過ごす主人公と同じ速度で、静かに物語と向き合う時間を味わえます。

一方で、刺激のある展開や起伏の大きいストーリーを求める人には、物足りなく感じるかもしれません。

本の魅力

死について考える勇気をくれる

主人公が少しずつ死を受け入れていく過程は、決してきれいごとではありません。気持ちは行ったり来たりし、泣き、叫び、それでも少しずつ前へ進んでいきます。

この本を読んでいて、心理学者キューブラー・ロスが提唱した「死の受容過程」を思い出しました。「否認 → 怒り → 取引 → 抑うつ → 受容」という5つの段階を経て、次第に死を受け入れていくという考え方です。

死を描く物語でありながら、最終的には「今、生きている時間とどう向き合うか」を問いかけてくれる一冊です。

悩みさえ愛おしくなる

生活が苦しいとき、悩みが尽きないとき、「悩めることも、つらいと思えることも、生きている証なんだよ」と誰かに言われても、素直に受け取れないことがありますよね。つらいときほど、そんな言葉はどこか説教のように聞こえてしまうものです。

でもこの本は、言葉で励ますのではなく、物語そのものを通してまだ生きている自身を思い出させてくれます。

読み終えたあと、悩みさえもどこか愛おしく感じられるようになりました。

読後には、生かされているこの瞬間を大切にしたくなるような温かさが残ります。

お涙頂戴では終わらない

この本のように死を扱う物語の中には、むやみに悲しみを煽るような作品もありますよね。いわゆるお涙頂戴と呼ばれるものです。そういった物語は、それはそれで沢山泣いてストレス発散になるので良いのですが、『ライオンのおやつ』は決してその類ではありません。

ただ悲しませるのではなく、静かに、「死とは何か」「生きるとは何か」を問いかけてくる一冊です。

主人公のように、誰もがいずれは死に至ります。その時が来るまで、この本のことを覚えていられたらいいなと思うほど、心に残る物語でした。

さいごに

読み終えたあと、数日間はふとした瞬間に死について考えてしまうほど、心に残る物語でした。静かで優しい語り口なのに、胸の奥に確かに残る読後感があります。

そしてもし『ライオンのおやつ』の穏やかな世界が好きなら、小川糸さんのエッセイもきっと気に入ると思います。 日々の小さな出来事や、ものの見方がやさしく綴られていて、小説と同じ空気をまとっています。 どちらも読むことで、互いの魅力が深まるはずです。

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