常識では語れない愛『流浪の月』感想と考察

小説

2020年に本屋大賞を受賞した、凪良ゆう著『流浪の月』。
先日同じく2020年本屋大賞の2位に選ばれた『ライオンのおやつ』を読み、
「では1位はどんな物語だったんだろう」と調べてみると、

ちょうど積読の中に眠っていた一冊でした。
これは読まねば、そんな気持ちで手に取りました。

本日は、そんな『流浪の月』について、ネタバレなし、ネタバレあり両方でご紹介します。

あらすじ

普通とは違っていたが、 それでも暖かく幸せな家庭。
そこから父母を立て続けに失った小学生の更紗は、 親戚の家で少しずつ心を閉ざしていく。

そんな彼女の前に現れたのが、 静かな影をまとった青年・文
更紗は彼のそばで、ようやく自分を取り戻す。

けれど、その出会いは正しさから大きく外れたものだった。

世間の価値観では測れない、 二人だけの愛と救いの物語。

どんな人におすすめ?

  • 恋人という枠を超えた、特別なつながりを感じたい
  • 人の善意が複雑に作用する物語に興味がある
  • 切なさ、残酷さと救いが同時に存在する作品が好き
  • 大人の抱える過去や痛みに、どこか共感したい

ネタバレあり考察

※ここからは本の内容に触れますので、ご注意ください。

文は小児性愛者なのか

物語の中盤まで、私は文のことをいわゆる小児性愛者なのだと思い込んでいました。

けれど、文自身の告白を読んだ瞬間、
「あ、そういうことだったのか」と腑に落ちました。

文は、病気により大人の男になり切れていなかったんですね。

作中では文の病名は明記されていません。 ただ、彼の語りから推測すると、 第二次性徴がうまく進まないような身体的問題を抱えていたようです。

ネット上でも文は結局小児性愛者だったのかという疑問が見られましたが、私は小児性愛者ではなかったと思います。

大人の女性に対しても、子どもである更紗に対しても、 性的な魅力という意味での興味を抱いていませんでした。

むしろ、 自分の身体が病気により成長できない事実から目をそらすために、 同じく第二次性徴前の子どもに親近感を抱いたのではないか。 そんなふうに感じました。

少しでも楽になりたくて、自分をだまし続けることに全力を傾け、 皮肉にもそのせいで、ぼくはさらなる混乱の極みに落ちていく。(『流浪の月』P318から抜粋)

この一節は、前半で文を小児性愛者だと思い込んでいた私にとって衝撃でした。

自分を小児性愛者だと騙すより、身体のことをどこかに相談するほうが容易いのではと 一瞬思ってしまったけれど、 文の家庭環境や、彼がまだ幼かったことを考えると、 そうできなかった理由も理解できる気がします。

反省しながらも、繰り返すDV

更紗の彼氏・亮くんは、幼い頃に母が家を出ていった経験から、見捨てられることにトラウマを抱えています。

そんなトラウマから、更紗が自分から離れていくように感じると、彼は彼女を支配しようとし、暴力という最悪の形で感情が噴き出してしまう。

亮くんは典型的なDV加害者像に重なる部分もありますが、ひとつ特徴的な描写があるように思いました。それは 暴力のあと、毎回本気で反省しているように見えるという点です。

一般論として、DVをしてしまう人が反省しているように見えることはあっても、 自分の暴力性を深く自覚し、根本から向き合うことは簡単ではないと言われています。

一方で亮くんは、暴力が悪いことだと頭では分かっている。分かっているのに、幼い頃の傷が深すぎて、感情が暴走すると自制が効かなくなる。 その危うさが、物語の中で繰り返し描かれています。

暴力は決して許されるものではありません。

けれど、亮くんの背景を知ると、 彼自身もまた救われなかった人なのだと感じてしまう瞬間があります。

傷ついたまま大人になり、誰かを傷つけながら、自分自身も苦しみ続けてしまう。

そのどうしようもなさこそが、亮くんという人物の悲しさなのだと思いました。

ハズレのトネリコ

この本を読むまで、お恥ずかしながらトネリコを知りませんでした。

物語と切り離せない「トネリコ」を先に知りたく、途中で本を置いて、
トネリコを調べました。

トネリコは、日本原産の落葉樹で高さ10m〜15mほど大きくなる木だそうです。
シンボルツリーなどの庭木としても人気だとのこと。

文の母もシンボルツリーとしてトネリコを植えますが、
最初の苗がなかなか育たず、
「ハズレ」と言って抜き、新しい苗を植え直します。

私はもっと小さく弱い苗を想像していたのですが、
10m以上に育つ木なら、苗の時点でもそれなりの大きさがあるはず。

そんな苗を、「ハズレ」の一言で捨ててしまえる母にどうしようもない無情さを感じました。

木の生育環境を変えるではなく、切り捨てて次を植える。

そんな母の姿を見ていたからこそ、文はハズレ認定されることを恐れ、自身の身体の相談ができなかったんでしょうね。

繊細さんにこそ読んでほしい

心が繊細な方は、誘拐やDVといった重いテーマの本を、 どうしても避けてしまうことがあると思います。 読み終わった後も物語から抜け出せず、 胸のざわつきが長く残ってしまうこともありますよね。

『流浪の月』も、あらすじだけを見ると決して軽い物語ではありません。

肉体的・性的な暴力の描写も一部含まれており、 読みながら思わず身体に力が入ってしまう場面もありました。

それでも、不思議と読み終えたあとに心が沈むことはありませんでした。

一見普通の大人に見える登場人物たちが、 それぞれ暗い過去を抱えながら、 それでも必死に生きようとしている姿が描かれています。

人より敏感にいろいろなものを察知しながらも、普通であろうと頑張りすぎてしまう繊細さんにこそ、 恐れず読んでほしい一冊でした。

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