静かに心がざわつく短編集『スモールワールズ』を読んで感じたこと

小説

通勤時間や寝る前、ご飯が炊けるのを待つあいだ。
忙しい毎日のすき間に読むのにぴったりなのが短編集です。

いつもはエッセイや、心が温かくなる短編集を選びがちなのですが、今日は少し毛色の違う一冊を紹介します。
静かに進むのに、どこか心がざわつくような短編集です。

ネタバレは含みませんが、物語のテーマが人によっては心の傷に触れる可能性もあるので、安心して読めるように「こういう方は注意かもしれません」という点もあわせて書いていこうと思います。

本の情報・あらすじ

  • 著者:一穂 ミチ
  • 出版社:講談社
  • 発売日:2023年10月13日
  • ページ数:329ページ
  • ジャンル:短編集(全6編)

『スモールワールズ』は、家族や恋人、友人など身近な人との間にあるあるほころびを、静かに描いた短編集。穏やかな日常の裏側に潜む痛みや違和感が少しずつ浮かび上がり、読み終えるころには胸の奥に小さなざわめきが残ります。

静かな描写に潜む違和感

『スモールワールズ』は殺人、産後うつ、DV、葬式など重いテーマが扱っていますが、激しい描写などはなく、驚くほど淡々としています。だからこそ、物語に潜む違和感を見つけると、どんな展開が繰り広げられるのか、感じた違和感は気のせいなのか、いろいろな感情が忙しく交差します。

物語によって、ぞくっとする話もあれば元気づけられるような話もあり、感情の振れ幅が大きくて、まるで静かなジェットコースターのようでした。

残酷な描写や過激な表現はないので、重いテーマが苦手な方でも比較的安心して読めると思います。

6編それぞれの魅力

ここでは、『スモールワールズ』に収録される6つの物語の魅力をそれぞれ紹介します。

それぞれの物語にどんなテーマが含まれているかにも触れます。
今、心に痛みを抱えている方も、無理のない範囲で安心して読めますように。

ネオンテトラ

不妊に悩む女性と、虐待を受ける少年の不思議な交流を描いた物語。
日常を淡々とこなしながらも、不妊や夫婦関係など誰にも言えない痛みを抱える女性の姿がとても印象的でした。
結末が本当に幸せなのか、そして誰にとっての幸せなのかを考えずにはいられません。

魔王の帰還

破天荒で魔王のような姉、気弱な弟、そしてクラスで浮いた存在の少女。
それぞれ事情を抱えた三人が関わり合うことで、少しずつ世界が動き出す物語です。
お姉さんのキャラクターがとても魅力的で、私も話してみたくなるような存在でした。

ピクニック

公園でピクニックをする三世代の家族。
一見穏やかに見えるその時間の裏に、静かに隠された家族の秘密があります。

個人的には、6編の中で一番ぞくっとしました。ただ怖いだけではなく、深い悲しみがじわりと広がる物語で、先を想像すると胸が苦しくなります。

花うた

殺人犯と、その遺族の女性が手紙を通じて交流する物語。
不思議な関係性の二人が、手紙のやり取りを重ねるうちに、少しずつ心を交わしていきます。

女性が最後に下す決断には共感できない部分もありましたが、「こういう感情が生まれることもあるのか」とハッとさせられました。

愛を適量

長らく会っていなかったトランスジェンダーの娘(息子)と、高校教師である父・慎悟の再会を描く物語。

誰かを思う気持ちは、時に過剰になり、時に不足する。
タイトルの通り愛を適量にすることの難しさを強く感じました。

式日

1年ぶりの連絡をきっかけに、主人公は後輩の父親の葬式へ向かいます。
昔のわだかまり、友人という不確かな関係、そして流れていく時間の中で、それでも今を生きる物語。

静かな余韻が残る、最後にふさわしい一編でした。

最後に

『スモールワールズ』に出てくるネオンテトラ。

名前の聞いたとのない魚でしたが、画像を見てみると、小学校の図書館の水槽にいたような気がします…(グッピーだったのかもしれませんが。)

調べると、ネオンテトラ1匹あたり100円前後で買えてしまうようですね。
100円の命とは…と悲しくなりましたが、それもまた綺麗ごとなのかもしれないですね。

『スモールワールズ』、決してきれいごとではない、妙にリアルでとても面白い短編集でした。

日常に刺激が欲しい時、日々に退屈さを感じている時、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

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